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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1370号 判決 1969年7月09日

理由

《証拠》を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。即ち、

一、株式会社ジユピターは、昭和四一年三月九日被控訴人の個人営業を引継ぎ繊維製品の縫製加工を業とする会社として設立されたものであつて、その設立当初から被控訴人が代表取締役となつていたが、被控訴人は右会社設立に先立ち、他からの借入金によつて京都市右京区川島粟田町三六番地の二八、二九地上に鉄筋コンクリート二階建の事務所兼作業場兼居宅(一、二階共七九・四九平方米)を建築し、右会社の設立に際して右建物の所有名義は自らに留めながら、右借入金及びその他の被控訴人個人の債務合計約一、〇〇〇万円を同会社が引受けることとした為、同会社は設立当初から右債務の返済に追われ、経理内容はかなり苦しいものであつた。

二、かかる状況の下に、同年八月頃被控訴人は右会社の代表取締役として控訴人に金員の借用方を申入れ、同人から六〇万円を借受けて、その支払の為に同会社振出の額面六〇万円の約束手形を控訴人に交付した。

三、然るに、被控訴人は、事業を着実に発展させ右の負債を解消する為の具体的な経営方針ないし経営計画も樹立しないまま、漫然と右会社の取引の規模を拡大し、これに伴つて増加する下請業者への前払資金や前記各債務の利息金の支払に窮すると、その支払日には返済の見込もないのに他から金員を借受けて一時を凌ぐ、という方法で会社を経営した為、同会社の第一回決算期である昭和四二年二月二八日現在の貸借対照表及び損益計算書には当期損失金を一、三七六、九六二円と計上しているが、右貸借対照表には会社の所有になつていない前記土地建物も会社資産として記載されており、実際の負債額は約一、五〇〇万円に及んでいた。

四、このような状態であつた為、被控訴人は、控訴人に対し二度に亘つて前記借受金の返済の猶予を求め、二度目である同年五月二〇日その支払の為に別紙目録記載の約束手形を交付したのであるが、その後も具体的な経営計画ないし資金計画のないままに前同様の資金繰りを続けながら、一方では布地の売買やいわゆる家屋の建売業などにまで事業を拡大し、遂にはその資金を会社名義であれ被控訴人個人名義であれ、借りられる所から調達するという方法を採るなど放漫極まる経営を継続した結果、負債は増加の一途を辿り、右会社は同年九月初頃遂に倒産するに至つた。

五、右倒産当時は、右会社の負債は約五、〇〇〇円に達していたが、前記土地建物は依然被控訴人の所有名義であつて、会社には見るべき資産はなく、倒産直前に取引先から銀行に払込まれた約三〇〇万円の会社の売掛金も被控訴人が着服して行方をくらましたので、前記約束手形も不渡りとなり、控訴人の右会社に対する右手形金六〇万円の回収は全く不可能になつた。

以上の事実によつて考えると、そもそも被控訴人が株式会社ジユピターの代表取締役として控訴人に本件六〇万円の手形貸付を申入れた当時、会社は既に資金的な行詰りからかなり苦境に立ち、その返済の見込みがあつたか否かすら疑わしいものがあつたにかかわらず、事業の発展ないしは拡大により弁済資力の回復は容易であるとの安易な見通しの下に右融資を受け、明確な経営計画ないしは資金計画をもたずに徒らに事業を拡大する等放漫な経営に出たため、会社の資金繰りはさらに困難となり、場当りの資金調達の繰り返しを余儀なくされて、遂に会社の倒産・手形の不渡りを招き、控訴人の右手形金の回収を不能ならしめるに至つたものであつて、かくの如きは、被控訴人が会社の代表取締役としてその職務を執行するにつき、少くとも重大な過失があつたものというべきであるから、被控訴人は商法第二六六条ノ三第一項前段の規定に基づき、第三者である控訴人の蒙つた損害を賠償すべき義務があり、右損害額は前記手形金六〇万円及びこれに対する右手形の満期日たる昭和四二年九月八日以降の年六分の法定利息金と同額であるとみるのが相当である。

そうであれば、被控訴人に対し、金六〇万円及びこれに対する昭和四二年九月八日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払を求める控訴人の第一次的請求は正当として認容すべく、右と異つた原判求は失当

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